君は極薄の氷の上を滑っているようなものだ。 ――しかし、私は、その向こう側へ到達したいのです。 原題:MURDER IN THE FIRST
全米一悪名高きアルカトラズ刑務所を閉鎖に追い込んだ、一人の囚人と彼を支えた若き弁護士の友情を描く、実話の映画化。死刑確実と言われていたアルカトラズ刑務所内で起こった殺人事件を担当することになった若き弁護士ジェームス(クリスチャン・スレーター)は、犯人の囚人ヘンリー・ヤング(ケヴィン・ベーコン)を調べていくうちに彼の有罪に疑問をもつようになっていった。やがて彼はアメリカ合衆国に真っ向から闘いを挑んでゆく……。 妹のために5ドルを盗んだ男が、いかにして殺人を犯すまでに至ったのか。極端だけれども、当時は誰の身にも起こりうることだった。この事実に、まずは驚愕し、恐怖しなければならない。
人を殺したら、悪いのは加害者である――ということは当然だ。しかし、この作品を見たら、簡単にそう結論づけることが難しくなってくる。最近“チェンジリング”という映画で、アンジーが精神病棟に監禁され、虐待に近いことをされているシーンがあったが、ヘンリー・ヤングはあれを200倍くらい酷くしたような環境下で1000日も収容されていた。目を塞ぎたくなるようなグレンからの暴力。全身に酷い怪我を負っても、不衛生で糞尿にまみれた穴の中、全裸で放置され続ける。これが1000日だ。なぜそんな穴に放り込まれたか。理由は“脱獄を試みたため”だ。脱獄仲間に密告され、ヘンリーだけが穴に監禁されることとなったのだ。
1000日後、彼はやっと他の囚人たちと同じ食堂へ行くことが出来た。しかし、あまりに残虐な生活を強いられたため、全身の震えが止まらず、常に怯えきっているヘンリー。すると目の前に、自分を裏切った仲間が平然と食事をしている姿があった。
――だからといって殺人を犯していいことにはならない。当然、彼には死刑が求刑された。そこで、彼の元に若き弁護士ジェームズが現われる。なんとも情けない登場の仕方で、観客に不安を植えつけることに成功している。
しかし、この弁護士が、空前絶後の革命を成し遂げるのだ。
負け試合だと言われた裁判に、ジェームズは果敢に挑んでいく。諦めという言葉は最初からこの世に存在していないかのように、彼は前へ前へと突き進んでいく。ジェームズは殺人犯であるヘンリーに警戒心を微塵も示すことなく、すぐに接近した。自ら牢屋の中へ踏み込んだのだ。深い傷を負って、まともに発語が出来なくなっていたヘンリーの心に、温かな光を灯した。ジェームズは、ヘンリーに言葉を投げかけ続けたのだ。
いつしかヘンリーに「俺たちは友達だろう?」と言わしめるほどに、心を通わせることが出来た。ジェームズは、なんとしてでもヘンリーの命を救いたかった。そのために、彼は刑務所を訴えることに決めた。巨大な敵に、たった一人で立ち向かったのだ。ヘンリーは言った。「俺は殺人の凶器だった」と。だが、ヘンリーはジェームズに出会い、「正義への武器」となっていった。恐怖から逃げていたヘンリーが、ラストで見せる表情。それが、彼の変化を物語っている。
私は、上の大きな字で載せた台詞に感動した。歴史を動かす人間の言葉だ。そして、忘れてはいけない。この作品は、実話なのである。
予告
映画の世界を広げよう♪
1995年 アメリカ 監督:マーク・ロッコ 出演:クリスチャン・スレーター、ケヴィン・ベーコン、ゲイリー・オールドマン、エンベス・デヴィッツ、ウィリアム・H・メイシー、ブラッド・ドゥーリフ、スティーヴン・トボロウスキー、リー・アーメイ他 自己満足的評価 ★★★★★